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松山地方裁判所 昭和30年(行)1号 判決

原告 有限会社ギンザヤ洋服店

被告 愛媛県

主文

原告の訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告会社代表者は適式の呼出を受けながら本件口頭弁論期日に出頭しないが当裁判所が陳述したものと看做した訴状によれば「被告が訴外村上高市に対する滞納処分として昭和三十年二月十日に別紙目録記載の物件に対してした差押処分はこれを許さない」「訴訟費用は被告の負担とする」旨の判決を求めその請求の原因として、被告は訴外村上高市に対する昭和二十五、六年度第一種事業税計金拾万四千百九拾円の滞納処分として昭和三十年二月十日原告会社において温泉地方事務所事務吏員郷田忠晴をして、別紙目録記載の物件に対し差押処分を行わせた。しかし右物件は原告会社の所有であつて右訴外人の所有物ではないから右差押処分は違法である、そこで原告は右温泉地方事務所を通じ被告に対し異議の申立をしたがこれを却下する旨の決定があつたので右差押処分不許の裁判を求めるため本訴請求に及んだというにある。

被告訴訟代理人は本案前の答弁として主文と同旨の判決を求めその理由として、行政処分の取消変更を求める訴はその処分をした行政庁を被告とすべきものであつて県を被告とすべきものではない。また本件滞納処分に対して不服のある者は先づ地方税法の規定により県知事に対し異議の申立をしその異議の決定を経た後でなければ出訴できないものである。然るに原告は、異議の申立をしないで出訴したものであるから本訴は不適法である。

つぎに本案につき原告の請求を棄却する旨の判決を求め答弁として訴外村上高市に対する滞納処分として原告主張の日、本件物件に対し、差押処分が行われたことは認めるが右物件が原告の所有であること、本訴出訴前に異議の申立のあつたことは否認すると述べた。

理由

先づ本訴の適否について考える。

原告は「差押処分の不許」を求めるというのであるが右は差押処分が違法であることを理由にその取消を求める趣旨と解すべきところ本来行政処分の取消を求める訴はその取消の対象である行政処分をした行政庁を被告とすべきものであつてその処分の効果の帰属する国又は地方公共団体を被告とすべきものではない。これを本件について見ると原告は訴外村上高市に対する第一種事業税(県税)の滞納処分(差押処分)の取消しを求めるというのであるから、この訴については、その処分をした行政庁を被告とすべきであつて地方公共団体たる愛媛県を被告とすべきものではない、よつて愛媛県を被告とした本件訴は不適法である。

また滞納処分の取消しを求める訴を提起するにはその前提としてその処分を受けた日から三十日以内に県知事に対し異議の申立をし、その申立に対する決定を経なければならないのである。(地方税法第七十二条の六十八第二項、第四項第七項)もつとも右地方税法第七十二条の六十八第二項にいわゆる滞納「処分に不服がある者」の中に納税義務者でない第三者が含まれるかどうかについては多少の疑義がないわけではないけれども、右規定は単に「処分に不服がある者」とあるだけでその範囲については何等制限するところがなくまた、差押処分は行政官庁の一方的行為によつて為されその相手方の意思を顧慮しないものであるから時には第三者の所有物件について差押処分が行われ不当に第三者の権利を侵害することなきを保し難いこと等を考えると右の不服がある者というのは納税義務者であると第三者であるとを問はずひろくその滞納処分によつて権利を侵害せられたとしてこれにつき不服を主張する者のすべてを含むものと解すべきである。従つて原告も本訴を提起するには先づ本件差押処分に対し異議の申立をしその決定を経なければならないのに拘はらずこの点に関する立証をしないから原告の本件訴はその前提要件を欠く不適法のものといわなければならない。

以上の理由により原告の本件訴は本案について判断するまでもなく不適法として却下を免れない。よつて訴訟費用につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 谷本仙一郎 瓦谷末雄 中利太郎)

(目録省略)

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